「いじめ重大事態」とは ― 法第28条と調査公表の仕組み
いじめ防止対策推進法 第28条 が定める重大事態の 2 類型、報告フロー、第三者調査委員会、保護者の請求権までを所管法令と文部科学省ガイドラインに基づいて解説します。
1. いじめ重大事態の定義 ― 法第28条
いじめ防止対策推進法(平成 25 年法律第 71 号)は、第 28 条第 1 項で 「重大事態」を次の 2 つの場合と定めています。
- 第1号事案:いじめにより当該学校に在籍する児童等の 生命、心身又は財産に重大な被害が生じた疑いがあると認めるとき。
- 第2号事案:いじめにより当該学校に在籍する児童等が 相当の期間学校を欠席することを余儀なくされている疑いがあると 認めるとき。
文部科学省「いじめの重大事態の調査に関するガイドライン」(平成 29 年 3 月)は、第 2 号事案の「相当の期間」について 年間 30 日 を目安と示しつつ、児童生徒が一定期間連続して 欠席するような場合、上記目安にかかわらず学校の判断で重大事態と 扱うことを求めています。また、児童生徒や保護者から「いじめにより 重大な被害が生じた」旨の申立てがあった時点で、重大事態として 調査を開始すべきとされています。学校が「いじめがあったとは 判断していない」段階でも、申立てがあれば調査に入る運用です。
2. 報告フロー ― 学校・設置者・自治体長
重大事態が発生した場合、学校は設置者を経由して、最終的に地方 公共団体の長へ報告する必要があります。学校設置者の区分ごとに、 概ね次の流れになります。
- 公立学校:学校 → 教育委員会 → 地方公共団体の長 (都道府県知事 / 市町村長)
- 国立学校:学校 → 国立大学法人 → 文部科学大臣
- 私立学校:学校 → 学校法人 → 都道府県知事
報告は速やかに行うことが求められ、調査の進捗に応じて中間報告・ 最終報告を提出します。報告を受けた地方公共団体の長は、必要が あると認めるときは 再調査 を行わせる権限を 持ちます(同法 第30条・第31条)。
3. 第三者調査委員会の役割と構成
重大事態の調査は、事実関係を可能な限り網羅的に明確化し、 同種事案の再発防止に資することを目的としています。文科省 ガイドラインは、調査組織を学校内ではなく外部の専門家を含む 形で構成することを原則としています。典型的な構成員は次の通りです。
- 弁護士(事実認定・人権配慮)
- 精神科医・心療内科医(被害児童生徒の心身への影響評価)
- 臨床心理士・公認心理師(心理的影響と支援設計)
- 社会福祉士・スクールソーシャルワーカー
- 学識経験者(教育学・教育法学)
被害者・加害者と利害関係のない人選であること、組織として独立して 調査を進められることが、報告書の信頼性の前提になります。学校が 当初設置した校内委員会で十分な調査ができないと判断された場合、 設置者が改めて第三者委員会を立ち上げる例も少なくありません。
4. 調査結果の公表方針と匿名化
調査結果(最終報告書)の公表範囲は、被害者・加害者・その保護者の 意向と、社会への説明責任のバランスを踏まえて設置者が判断します。 一般的には、報告書本体は被害者側にのみ交付し、概要版・再発防止策・ 教育委員会の対応方針を公表する形がとられます。被害児童生徒の 氏名はもちろん、特定可能な属性(学年・部活・容貌等)は原則として 匿名化されます。
GakkoDB は、各教育委員会・学校設置者・主要報道機関が公表した範囲の 情報のみを掲載しています。被害児童・生徒の特定につながる情報は 一切扱わず、加害者についても処分が公表されたケースに限り、 公表元の表現を踏襲して掲載します。
5. 保護者・関係者ができること
被害児童生徒の保護者は、重大事態調査において次の権利・選択肢を 持っています。
- 調査の申立て:学校・設置者に対し、重大事態として 調査するよう書面で申し立てる。
- 調査委員の人選への意見:構成員の中立性に懸念が ある場合、設置者に対し変更を求める。
- 調査経過の説明を受ける権利:随時、調査の進捗・ 聞き取り結果について説明を受ける。
- 所見の表明:調査結果の取りまとめ前に、被害側として 所見を文書で表明する。
- 再調査請求:最終報告書に重大な事実誤認が ある場合、地方公共団体の長を通じて再調査を求める。
実務的には、初期段階で記録(やり取りの日付・内容)を残すこと、 子どもの心身状態を医師・カウンセラーに記録してもらうこと、 学校とのやり取りは口頭ではなく書面(メール・文書)で行うこと が、後の調査・補償交渉で重要になります。専門的な対応が 必要な場面では、いじめ問題に詳しい弁護士・スクールソーシャル ワーカー等への相談を検討してください。
6. 関連法令・公的資料
- いじめ防止対策推進法(平成 25 年法律第 71 号)
- 文部科学省「いじめの重大事態の調査に関するガイドライン」 (平成 29 年 3 月)
- 文部科学省「いじめの防止等のための基本的な方針」 (平成 25 年策定/平成 29 年最終改定)
- 文部科学省「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に 関する調査」(毎年公表)
7. よくある質問
- Q. 「重大事態」と通常の「いじめ」の違いは何ですか?
- いじめ防止対策推進法 第2条 では、いじめ自体を「児童等が心身の苦痛を感じているもの」と広く定義しています。一方、第28条 の重大事態は、(1) 生命・心身・財産に重大な被害が生じた疑い、または (2) 相当の期間(目安として年間 30 日以上)学校を欠席することを余儀なくされている疑い、のいずれかに該当する場合を指します。重大事態に該当すると、学校・設置者は速やかに調査組織を設置し、設置者が地方公共団体の長へ報告する義務があります。
- Q. 保護者が「重大事態として扱ってほしい」と申し立てることはできますか?
- できます。文部科学省「いじめの重大事態の調査に関するガイドライン」(平成 29 年 3 月)は、児童生徒や保護者から「いじめにより重大な被害が生じた」旨の申立てがあった時点で重大事態が発生したものとして調査を開始すべき、としています。学校が「いじめではない」と判断した場合でも、申立て自体を認めて調査に入る運用です。
- Q. 第三者調査委員会はいつ設置されますか?
- 公立学校では原則として教育委員会が設置します。被害者・加害者と利害関係のない専門家(弁護士・精神科医・学識経験者・心理職・社会福祉士など)で構成し、中立性・公平性が求められます。学校が当初設置した校内組織で十分な調査ができないと判断された場合、設置者が再調査委員会を設けるケースもあります。
- Q. 調査報告書は公表されますか?被害児童・生徒の名前は出ますか?
- 原則として、被害者・加害者・その保護者の同意を得たうえで、個人が特定されない形に匿名化して公表されます。一方、調査結果の概要・再発防止策・教育委員会の対応は、社会への説明責任の観点から公表されるのが通例です。GakkoDB は公表された調査報告書および報道された範囲のみを掲載し、被害児童・生徒を特定しうる情報は一切扱いません。
- Q. 重大事態が公表されない学校は安全ということですか?
- そうとは限りません。重大事態の認定や公表のタイミングは設置者によって運用が異なり、認知件数と公表件数には差があることが文部科学省の調査でも指摘されています。GakkoDB の掲載件数 0 件は「現時点で公表情報が登録されていない」ことを示すもので、安全性を保証するものではありません。